ASIC・カスタムLSI受託開発 · 基礎知識
ASICの費用と数量の考え方|初期費用・単価・FPGAとの損益分岐と少量開発【2026年版】
ASICは初期費用がかかる代わりに、数量が増えるほど1個あたりのコストが下がります。掲載会社の公式情報から、費用の構造、FPGAとの比べ方、少量で作る方法を整理しました。
ASICの見積を取ると、設計費やマスク代などの初期費用と、チップ1個ごとの単価が分かれて出てきます。この構造を知っておくと、FPGAのままにするか、ASICにするかを判断しやすくなります。
この記事では、掲載会社が公式サイトで示している考え方と数字をもとに整理します。
費用は初期費用と単価に分かれる
ASICの費用は、作るたびにかかるものと、1回だけかかるものに分かれます。主な項目は次のとおりです。
| 区分 | 主な項目 |
|---|---|
| 初期費用(1回) | 仕様検討、設計、検証、レイアウト、マスク、試作、テスト開発、信頼性評価 |
| 単価(1個ごと) | ウェハ、パッケージ、テスト |
ディー・クルー・テクノロジーズは、ASICは初期費用・マスク代が高額な一方、量産規模でコストメリットが出ると説明しています。FPGAは少量・試作なら低コストで、大量生産ではコストが上がるとしています。
FPGAとの損益分岐を考える
FPGAからASICへ切り替えるかどうかは、生産数で決まることが多いです。掲載会社は次のように説明しています。
- メガチップス: FPGAはASICより初期コストを低く抑えられる半面、量産数量が多い場合はASICよりコストが高くなる。損益分岐点を境に逆転する
- NECプラットフォームズ: FPGA→ASIC互換のコスト比較の一例として、8,000個以上生産する場合にトータルコストの削減が可能。実際はMOQがあり相談
- メガチップス: FPGAは低消費電力設計ができず、ヒートシンクなどの熱対策で量産コストが増える場合がある
8,000個という数字は一例で、回路の規模やプロセスで変わります。自社の数量で比べるには、FPGAの部品代と熱対策の費用も含めて試算を頼んでください。
開発費の目安を示している例
受託開発の料金表を載せている会社は、今回の調査ではありませんでした。目安として参考になるのは、ロジック・リサーチのコスト解析サービスの例です。
| 公式記載の例 | 内容 |
|---|---|
| 概算開発費 | 新規開発の例として1,500万円〜2,500万円(税込・税別の表記なし) |
| 概算単価 | チップサイズやパッケージごとに例を表示 |
これは基板に載ったICをASIC化した場合の解析例で、見積ではありません。実際の金額は、工程、プロセス、数量で大きく変わります。
少量で作るための選択肢
数量が少ない用途でも、ASICやカスタムICを作る方法はあります。少量や試作のみへの対応を公式に書いている会社は次のとおりです。
- 東芝情報システム: アナログICを100個程度から。試作品だけの開発も可能
- 内藤電誠工業: 試作1個からのカスタムIC開発。大手IDMが対応しない少量・多品種に対応
- 三栄ハイテックス: 少量生産品や試作品のみの製造にも対応
- TOPPANテクニカル・デザインセンター: テスト開発を含めた少量生産品および試作のみも対応
- DNPエル・エス・アイ・デザイン、NECプラットフォームズ: 少量生産にも対応
試作の費用を下げる方法として、複数の設計を1枚のマスクに載せるシャトルサービスもあります。DNPエル・エス・アイ・デザインはTSMC CyberShuttle、シリコンアーティストテクノロジーはMLMサービスやシャトルでの試作を案内しています。
長く使うなら供給期間も費用に入れる
産業機器のように長く作り続ける製品では、途中で部品が生産中止になると再設計の費用がかかります。供給期間についての公式記載を挙げます。
| 会社 | 公式記載 |
|---|---|
| セイコーエプソン | 1982年から続くサポート実績、自社前工程生産により長期安定供給 |
| メガチップス | 15年以上同一ファブでの量産供給の実績 |
| 日清紡マイクロデバイス | 国内生産体制で長期安定量産を支援 |
単価だけでなく、何年供給を続けられるかも見積で確かめてください。生産中止の通知が来たときの対応も、契約前に聞いておくと安心です。
開発期間も費用に効いてくる
開発に時間がかかれば、その間の人件費や、製品の発売が遅れる分の損失も出ます。期間について公式に書いている例を挙げます。
| 会社・方式 | 期間についての公式記載 |
|---|---|
| 日清紡マイクロデバイス アナログマスタースライス | レイアウト設計完了からES納品まで、およそ4週間 |
| セイコーエプソン エンベデッドアレイ | ロジック部のみの変更なら、ゲートアレイと同等の開発期間で改変できる |
| ディー・クルー・テクノロジーズ(ASIC全般の説明) | 設計・試作・評価を含めて数ヶ月〜1年以上 |
FPGAは設計後すぐに実装と検証ができるので、発売を急ぐ製品ではまずFPGAで出し、数量が見えてからASICにする進め方もあります。メガチップスは、次期機種のASICが立ち上がるまでFPGAで量産する予定だった顧客に、転換を提案した声を載せています。
見積書で見比べる項目
複数の会社から見積を取ったら、総額だけでなく内訳をそろえて比べます。会社によって、含まれている工程が違うことがあるためです。
| 項目 | 確かめること |
|---|---|
| 設計 | どの工程までが含まれるか(論理設計、検証、レイアウト、アナログ回路) |
| マスク・試作 | 専用マスクか、シャトルやMLMか。試作の数量 |
| 評価 | 評価ボードの作成と特性評価が含まれるか |
| テスト開発 | テストプログラムとプローブカードの費用 |
| 量産 | 最小発注数量、単価、納品の形 |
ターンキーの見積は工程がまとまっている分、内訳が見えにくいことがあります。分からない項目は、工程ごとの金額を出してもらえるか聞いてください。
見積を取る前にそろえる数字
費用の比較は、前提がそろっていないと意味がありません。最低限、次の数字を用意して依頼してください。
- 年間の想定数量と、量産を続けたい年数
- 今使っている部品の単価(FPGAなら熱対策の部品も)
- 試作の希望数と時期
- 納品の形(ウェハ、ベアチップ、パッケージ品)
- 製品の発売時期と、FPGAで先に出荷する可能性があるか
三栄ハイテックスはウエハー、ベアチップ、パッケージなど希望の形態で納品すると書いています。形が変わると単価も変わるので、最初に決めておくと見積がぶれません。
数字がまだ固まっていない場合は、幅を持たせた想定(少ない場合と多い場合)で試算を頼む方法もあります。損益分岐の位置が見えると、ASICにするかどうかを社内で決めやすくなります。
この記事に出てくる会社
- ディー・クルー・テクノロジーズ株式会社混載LSIを仕様から
- 株式会社DNPエル・エス・アイ・デザイン設計工程の一部から量産まで
- セイコーエプソン株式会社FPGA・CPLDの置き換えに
- 株式会社ロジック・リサーチ終息LSIの再開発
- 株式会社メガチップス量産FPGAをASICへ
- 内藤電誠工業株式会社アナログを少量から量産まで
- NECプラットフォームズ株式会社ASICから装置まで一括
- 日清紡マイクロデバイス株式会社国内アナログファウンドリ
- 三栄ハイテックス株式会社センサーAFEのアナログIC
- シリコンアーティストテクノロジー株式会社ファウンドリ選定と少量試作
- TOPPANテクニカル・デザインセンター株式会社EOL再生と量産管理
- 東芝情報システム株式会社アナログICを100個程度から
参照元
よくある質問
ASICはいくつから作ればFPGAより安くなりますか?
回路や数量で変わります。NECプラットフォームズは一例として、8,000個以上生産する場合にトータルコストを削減できる比較を示し、実際はMOQがあるので相談としています。
開発費の相場はありますか?
受託開発の料金表を載せている会社は今回の調査ではありませんでした。ロジック・リサーチがコスト解析の例として、新規開発の概算開発費1,500万円〜2,500万円の例を示しています(税込・税別の表記なし)。
100個程度でも作れますか?
東芝情報システムは、アナログICを100個程度から開発・量産でき、試作品だけの開発も可能とFAQで答えています。用途は民生用途と産業機器用途に限られます。
【用途別】ASIC・カスタムLSI受託開発おすすめ3選
センサー・電源・ドライバのアナログICを、試作から量産まで一社で
内藤電誠工業株式会社
試作1個からのカスタムIC開発。アナログ・ミックスドシグナルのターンキーで、パッケージも自社で製造
LSI設計事業部がターンキーサービスと受託設計サービスを提供し、アナログIC、ミックスドシグナルICの設計経験、大手IDMが対応しない少量・多品種への対応、国内自社リソース・自社設備による開発を特長に挙げる。国内外の複数のファウンドリのCMOS、高耐圧CMOS、Opto、Bipolar、SOIに対応し、QFN、QFP、DIPなどのパッケージを自社で製造する。ターンキー製品として680万個以上の量産出荷を公式に記載。
量産中のFPGAを、基板を変えずにASICへ置き換えるなら
株式会社メガチップス
既存のFPGA資産からASICへ転換。ピンコンパチブル対応でボード修正を不要に(対応できない場合あり)
FPGA・ASIC転換のページで、量産数量が多い場合にFPGAがASICより割高になることと、FPGAでは低消費電力設計ができず熱対策が必要になる場合があることを転換の判断材料に挙げる。既存のFPGA資産と要望をヒアリングして転換方法を提案し、論理シミュレーションを同社が担当することも可能。ボード設計が終わっている場合はFPGAとピンコンパチブルにして基板の修正を不要にできるとする。
論理設計・RTLtoGDS・アナログを工程単位で頼み、試作・量産までつなげるなら
株式会社DNPエル・エス・アイ・デザイン
0.35um〜16nmのRTLtoGDS実績、アナログ/MixedSignal設計、TSMCシャトル試作、少量にも対応するターンキー
SoC/ASIC設計、RTLtoGDS設計、アナログ/MixedSignal設計の3つの設計受託を用意し、RTLtoGDSではTSMC、UMCほかFabで0.35um〜16nmの対応実績と100MGate超のデザイン実績を記載。DNPがTSMC CyberShuttleのパートナーとして提供する試作では12nm〜0.35umが使え、LSIターンキーサービスは仕様検討から量産までを扱い、少量生産にも対応可能とする。