熱処理の受託加工会社 · 基礎知識
熱処理の硬さと硬化層深さの指定方法|HRC・HV・有効硬化層深さと検査の確認点【2026年版】
熱処理を頼むとき図面に書く硬さ(HRC・HV・HB)と、浸炭・高周波・窒化で指定する硬化層深さの考え方を整理します。受託会社が持つ硬さ試験機や、硬化層深さの公開例、検査記録の求め方まで、掲載25社の公式情報をもとにまとめました。
熱処理の指示でいちばん大事なのは、硬さと硬化層深さを数字で書くことです。ここが曖昧だと、受託会社は処理条件を決められず、仕上がりの確認もできません。
このページでは、硬さの書き方と、硬化層深さの考え方、検査で確かめる方法を整理します。
受託会社が公開している硬化層深さの範囲や、持っている試験機の種類も合わせて紹介します。
硬さの単位は、測り方で使い分ける
硬さは、試験機の種類によって単位が変わります。部品の大きさや硬化層の厚さに合う測り方を選ぶ必要があります。
| 単位 | 試験機 | 向く場面 |
|---|---|---|
| HRC | ロックウェル硬さ試験機 | 焼入れした鋼の表面。最もよく使われる |
| HV | ビッカース・マイクロビッカース | 薄い硬化層、窒化層、断面の硬さ分布 |
| HB | ブリネル硬さ試験機 | 焼なまし・調質した素材、鋳物 |
| HS | ショア硬さ試験機 | 大物やロールなど、持ち込めない部品 |
窒化のように硬化層が薄い処理でHRCを指定すると、下の生地まで押し込んで正しく測れません。薄い層はHVで指定するのが基本です。
反対に、焼なましや調質の素材をHVで指定すると、細かい組織のばらつきを拾って値が安定しないことがあります。素材の硬さはHBで、焼入れした表面はHRCで、薄い層はHVでと、処理に合わせて単位を選んでください。
硬さは上限と下限の範囲で書く
硬さは1点の数字ではなく、上限と下限の範囲で書きます。範囲がないと、合否の判断ができないからです。
- 書き方の例: 焼入れ焼戻し HRC58〜62
- 浸炭焼入れの例: 表面硬さ HV653以上、有効硬化層深さ0.8〜1.2mm
- 調質素材の例: HB241〜302
- 窒化の例: 表面硬さ HV700以上、窒化層深さの指定
範囲が狭すぎると、処理のばらつきで不合格が増えます。部品の機能に必要な幅を設計者と確認してから書いてください。
硬さを測る位置も書いておくと、受託会社と検査の結果がずれません。部分焼入れの部品なら、焼入れする範囲と、硬さを測る点を図に示してください。
単位を混ぜて書くと、換算の誤差で合否がずれることがあります。アイキン熱処理工業は公式サイトに自動硬さ換算のページを置いていますが、換算値はあくまで目安として扱い、図面には実際に測る単位で書くのが確実です。
硬化層深さは有効か全かを明記する
浸炭や高周波焼入れでは、表面からどの深さまで硬くするかを指定します。指定には、決めた硬さまでの深さを測る有効硬化層深さと、生地との境目までを測る全硬化層深さがあります。
| 種類 | 測る位置 | 使われ方 |
|---|---|---|
| 有効硬化層深さ | 規定した硬さになる位置まで | 図面で多く使われる |
| 全硬化層深さ | 生地と区別できる位置まで | 組織観察で確認する場合 |
アイキン熱処理工業はFAQで、図面に書かれる硬化層深さは通常は有効硬化層深さを指すと説明しています。処理ごとに基準の硬さが違うので、どちらで指定しているかを図面に書いておくと誤解がありません。
公式に出ている硬化層深さの例
受託会社が公開している硬化層深さの範囲は、問い合わせ前の目安になります。公式サイトの記載を並べます。
| 会社 | 処理 | 公式の記載 |
|---|---|---|
| 栄熱処理工業 | ガス浸炭焼入焼戻し | 有効浸炭深さ0.1〜0.4mmの浅物から1.0〜1.4mmの深物 |
| 栗山熱処理 | 浸炭焼入れ | 微浸炭は約0.15mmから、大物は約3mmまで |
| 丸眞熱処理工業 | 浸炭焼入れ | 1.0mm程度は毎日、1.5mm程度は毎週末実施 |
| 富士高周波工業 | 高周波焼入れ | ギヤ〜10.0mm、シャフト〜5.0mm、リング〜4.0mm |
深い硬化層ほど処理時間が長くなり、納期や費用に影響します。丸眞熱処理工業のように深さで実施日が変わる会社もあります。
材質で、出せる硬さの上限が決まる
硬さの指定は、材質で出せる範囲の中に収める必要があります。炭素が少ない鋼は、焼入れしても高い硬さにはなりません。
| 材質 | 浸炭後硬度の目安(栗山熱処理の公開表) |
|---|---|
| S45C | 〜50HRC |
| S50C | 〜55HRC |
| SCM415 | 〜63HRC |
| SCM420 | 〜63HRC |
栗山熱処理は、材質別に浸炭で得られる硬度をまとめた表をFAQで公開しています。図面の硬さが材質の上限を超えていないか、問い合わせの前に確かめられます。
アイキン熱処理工業はFAQで、同じ材質でもロットによって硬さが違うことがあると説明しています。材料メーカーが違うと規格内でも成分に差が出るためで、特に炭素鋼で目立つと書いています。
- 硬さが出にくい材質: 炭素量の少ない鋼(浸炭で表面に炭素を補う)
- ばらつきが出やすい材質: 合金元素の少ない炭素鋼
- 確認のしかた: ミルシートの成分を受託会社に渡す
硬さ試験機の種類で、測れる範囲が変わる
受託会社が持つ試験機の種類は、どの硬さを社内で確認できるかの目安になります。公式に試験機を挙げている会社の例です。
- フクネツ: ロックウェル7台、スーパーフィシャル4台、マイクロビッカーズ2台など
- 栄熱処理工業: ロックウェル4台、ビッカース6台、マイクロビッカースなど
- 岡谷熱処理工業: ロックウェル硬さ試験機8台、ショア2台・マイクロビッカース2台・微小硬度計1台
- 九州イオン窒化センター: ロックウェル、ビッカース、マイクロビッカース、ショア、ブリネル、エコーチップ
- 三和熱処理: ブリネル、ショア、ロックウェルCの3タイプ
窒化や薄い浸炭の層を測るにはマイクロビッカースが必要です。大物をショア硬さで管理したいなら、ショア硬度計を持つ会社を選んでください。
記録をどこまで出してもらうか
熱処理は、外から見ても仕上がりがわかりません。そのため、検査記録をどの形式で受け取るかを発注時に決めておきます。
| 記録 | 公式に記載がある例 |
|---|---|
| 熱処理記録・温度チャート | TANIDA(全ての熱処理に熱処理記録、温度チャートを提出可能) |
| 検査表 | 西田和髙周波(検査表の管理・発行) |
| 硬さの確認 | 武藤工業(サンプリング検査で硬さを確認) |
量産品で毎ロットの記録が必要なら、記録の様式とサンプル数を見積の段階で伝えてください。後から求めると、追加の費用や日数がかかることがあります。
硬化層深さの確認は、部品を切断して断面の硬さを測る破壊検査になることが多い方法です。量産品では、同じ材質・同じロットで処理した試験片や捨て品を1個つけて確認する方法もあるので、受託会社に相談してください。
この記事に出てくる会社
- アイキン熱処理工業株式会社金型・試作の真空焼入れを1個から
- 富士高周波工業株式会社大物の部分焼入れ(高周波・レーザ)
- 株式会社フクネツ熱処理+研削・TD処理
- 栗山熱処理浸炭焼入れの一点物・急ぎ
- 九州イオン窒化センター株式会社長尺のイオン窒化・大物焼鈍
- 株式会社丸眞熱処理工業試験・試作の1個処理
- 武藤工業株式会社処理の種類が多い1個からの相談先
- 西田和髙周波株式会社難しい形状の高周波焼入れ
- 岡谷熱処理工業株式会社歪みの少ない真空熱処理+コーティング
- 栄熱処理工業株式会社浸炭深さを指定したガス浸炭
- 有限会社三和熱処理大物の焼なまし・固溶化
- TANIDA株式会社(かほく工業試験所)アルミ合金のNadcap熱処理
参照元
よくある質問
図面に硬さだけ書けば十分ですか?
表面だけを硬くする処理では、硬さに加えて硬化層深さの指定が必要です。有効硬化層深さか全硬化層深さかも書いてください。
窒化の硬さはHRCで指定できますか?
窒化層は薄いため、HRCでは下の生地まで測ってしまいます。HV(ビッカース)で指定するのが基本です。
検査記録は必ずもらえますか?
会社と契約によります。TANIDAのかほく工業試験所はすべての熱処理に熱処理記録を提供すると公式に書いています。必要な記録は見積の段階で伝えてください。
【用途別】熱処理の受託加工会社おすすめ3選
金型や試作部品を、1個から日数の見通しを持って焼入れしたいなら
アイキン熱処理工業株式会社
FAQで「1個からご対応」。真空焼入れは中1営業日〜、プラズマ窒化は中2営業日、ISO9001/14001
FAQで試作品・小ロットについて「はい、1個からご対応いたします」と答え、試作段階の条件出しや量産前の確認処理も受けると書いている。標準納期の目安は真空焼入れ+低温焼戻し2回が中1営業日、プラズマ窒化が中2営業日と処理ごとに公開。真空炉は600W×600H×1,000L・500kgなど、素形材用のバッチ炉は1,200W×900H×2,850L。ISO9001とISO14001を取得。
大型ギヤや長いシャフトの、必要な部分だけを硬くしたいなら
富士高周波工業株式会社
ギヤφ4,000mm・7.0t、シャフト6,000mm。1〜100,000ヶ/月、標準納期3営業日、ISO9001
高周波焼入れの対応寸法をギヤ直径〜φ4,000mm・重量7.0t、シャフト直径〜φ400mm・長さ〜6,000mm(横焼)、レール幅〜300mm・長さ〜6,000mmと部品形状ごとに公開。受託加工は対応ロット数1〜100,000ヶ/月、標準納期は高周波事業部3営業日、レーザ事業部2営業日。立会試作やオンライン立会試作、無料技術相談もある。ISO9001を取得。
航空機・研究用のアルミ合金を、規格どおりの記録つきで熱処理したいなら
TANIDA株式会社(かほく工業試験所)
Nadcap認定を掲げ、T4〜T7を最小ロット1個から。1,500×1,500×1,000mm、温度チャート提出可
かほく工業試験所(KILT)の熱処理ページで「Nadcap認定を取得」と書き、サイトにAS9100Dのロゴを掲示(リンク先のNadcap認定書は有効期限2022年11月30日のもので、現在の認定は要確認)。軽合金をメインにT4・T5・T6・T7に対応し、AMS 2750・AMS 2771(アルミ合金)・AMS 2768(マグネシウム合金)を規格例に挙げる。最小ロット1個から受け、すべての熱処理に熱処理記録を提供。最大ワークサイズは1,500×1,500×1,000mm、温度均一性±5.5℃、焼入れ遅れ時間13秒。